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修身が描いた「美しい日本」とは?四季・皇室行事・郷土愛から読む愛国心|第3章

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『修身 尋常小学校教科書に学ぶ』第3章の題名は「美しい日本」です。描かれるのは、梅・桃・桜が咲く春、稲穂と月が輝く秋、北風と雪に耐える冬、そして人々が暮らす郷土です。しかし、この章は日本の自然を紹介するだけではありません。

教科書は、春の明るさを朗らかな心に、秋の澄んだ空気を清らかな心に、冬の厳しさを困難に耐える強さに重ねます。さらに季節の中へ皇室の祭祀を置き、家族愛から郷土愛へ、郷土愛から祖国愛へと話を広げます。昭和17年(1942年)の教材では、その祖国愛が祖国防衛と自己犠牲にまで結びつけられました。

この章で分かること

  • 自然の姿を人間の心と生き方へ結びつけた方法
  • 四季・農作業・皇室行事を一つの暦で教えた意味
  • 戦時下の教材が子どもに求めた「本当の勉強」
  • 理想の郷土がどのような共同体として描かれたか
  • 家族愛・郷土愛が祖国愛と自己犠牲へ接続された過程
目次

第3章の概要|自然・郷土・祖国を一つの物語にする

第3章の流れは、「自然を愛する心 → 郷土を愛する心 → 祖国を愛する心」と整理できます。もう一つ、「家族愛 → 郷土愛 → 祖国愛」という流れも示されます。国という大きく抽象的なものをいきなり教えるのではなく、花や月、家族、村、学校、友人といった身近な対象への愛着から国家への愛を育てようとしたのです。

ただし、この道筋は自然に決まるものではありません。自然や故郷を愛することと、国家の政策に従うこと、戦争で自己犠牲を求めることは本来別の問題です。第3章を読むときは、教材が描いた自然と生活、本書著者がそこから読み取る愛国論、昭和の戦時教育という三つの層を分けて考える必要があります。

春の息吹|明るい自然から朗らかな心を学ぶ

第3章は「春の息吹」から始まります。本書は、日本の風土や四季の移り変わりを愛することを、そこに暮らす人々を愛することと並ぶ愛国心の条件として捉えます。第五期の国定修身書は、季節の景色を見せたうえで、「日本の春のように、明るい、朗らかな心の人」になろうと児童へ呼びかけました。

新年から春へ|皇室と国民が同じ暦を歩む

第五期の4年生用修身書は、年の初めを祝う日として1月1日・2日・5日を挙げます。宮中では朝賀の式や新年の宴会が行われ、国民は日の丸と門松を掲げ、栄えていく御代と天皇の長寿を祝うという描写です。

朝賀ちょうがの式とは、皇族や高官らが天皇に新年の祝いを申し上げる儀式です。現在も1月1日に「新年祝賀の儀」が行われますが、制度や参列者、儀式の形は当時と同じではありません。教材が描くのは昭和前期の祝祭日のあり方です。

1月3日には元始祭げんしさいがあります。年の初めに皇位の由来を祝い、国家と国民の繁栄を祈る宮中祭祀です。現在の宮中でも1月3日に行われています。

暦の上では新年を「春」と呼んでも、実際の野山はまだ冬の色です。その眠りを最初に破るのが梅の花でした。節分を過ぎて梅のつぼみがふくらむ頃、2月11日の紀元節を迎えます。学校では紀元節の歌を歌い、神武天皇が初代天皇として即位したとされる日をしのびました。

梅の次に桃が咲き、木々が芽吹きます。彼岸桜が咲く春分の日には春季皇霊祭しゅんきこうれいさいが行われ、宮中では歴代天皇・皇族の御霊が祭られます。同じ頃、一般の家庭では彼岸に先祖を供養します。教材は、皇室の祖先祭祀と家庭の先祖供養を一続きに描きました。

本書の著者は、この構成から、皇室の祝いは皇室だけの行事ではなく国民全体の祝いであり、新年に尊皇心と愛国心を新たにしたと説明します。しかし、それが当時の国民全員に同じ強さで共有されていたとまでは、この教材だけでは確定できません。ここで確認できるのは、修身教科書が皇室と国民を同じ一年の暦に置いて教えたことです。

梅・桃・桜、鳥と虫、そして朧月

第五期の3年生用修身書は、春の景色を細やかに描きます。冬の冷たい風に耐えた草木が緑の芽を出し、霞の中ですくすく育つ。梅、桃、桜が次々に咲き、メジロやウグイスが枝から枝へ飛び、蝶や蜂は蜜を求め、ヒバリは空高く舞います。子どもたちは摘み草をし、野山で遊びます。

冬に荒れていた海は静まり、川の水は明るく柔らかく見えます。夜には朧月おぼろづきが昇ります。朧月とは、春の夜、霞や薄雲を通して輪郭がぼんやり見える月です。昔から春を象徴する景色として親しまれてきました。

教材は「春は美しい」で終わりません。柔らかな月を見れば心も穏やかになり、日本の春のように明るく朗らかな人になって、仲良く暮らそうと教えます。自然の観察を人格形成へつなげるところに、修身らしい教育方法が表れています。

美しい自然と美しい心

花や鳥、月や川を見て美しいと感じ、自分も明るく穏やかな人になろうとする。この部分には、今にも通じる学びがあります。自然を単なる景色として見るのではなく、そこから自分の生き方を考えるからです。

しかし、章は穏やかな自然教育だけでは終わりません。日本の春を愛する心は、日本人としての誇り、国体、祖国防衛へと進みます。ここから教材が置かれた戦時下の国家観が前面に出てきます。

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